【前回の記事を読む】配達員を装った2人組は、男性を段ボールに詰め工業炉へ…骨まで焼いた体を、なぜか自宅に戻し…

サイコ4――人体発火

土屋が静粛にするように捜査員たちに目で合図した。

「この事件には謎が多い。新宿の火災との関連も不明だ。引き続きトラックの追跡と、パーカーの男を捜索するように。以上」

会議は解散した。

警察の懸命の捜査にもかかわらず、トラックも、宅配業者を装った2人組も、パーカーの男も全く行方が掴めないままだった。散々歩き回って疲れ切った鍬下は、後輩の女性刑事、前田舞と新宿区の公園のベンチに腰かけた。昼間とは一転して夕暮れの空には一面灰色の雲がかかり、雨が降り出しそうであった。

「今日はもう無理そうですね」

前田が言った。

「そうだな」

二人は腰を上げ、公園の周囲を取り囲む林の中の散歩道を出口に向かって歩いて行った。林の中にはたくさんのブルーシートで作られたテントが立ち並んでおり、その中の一つから若い男が不意に出てきた。

「あっ、あれ!」

前田が叫んだ。男が来ていた黒いパーカーの胸の部分に例のロゴが描かれていた。男は二人に気がつくと、慌てて逃げ出した。

「待て!」

鍬下は公園の出口付近で男に追いつき、取り押さえ、手錠を掛けた。男は本庁に連行され、取調べを受けたが、氏名、年齢、出身地など全ての供述を拒否し、黙秘を貫いた。

携帯や身分証明書の類を一切所持していなかったため、公園のホームレスたちに話を聞いたところ、大野琢也と名乗っていたことが分かったが、戸籍データを調べても、同姓同名の人間は全て見た目の年齢が異なるか、或いは所在がはっきりしており、偽名の可能性が高かった。

彼は半年程前からその公園にテントを立てて暮らすようになったが、先住の者たちにもそれまでの人生を語りたがらず、彼らもそれ以上は詮索していなかった。

「大野琢也というのは本名か?」

鍬下が訊ねても大野は一切視線を合わさず、パーカーのポケットに両手を突っ込んで口をつぐんでいた。

「そのパーカーは珍しいロゴがついてるな。どこで買った?」

「……」

「何故3件の火災現場に姿を現した? あきる野市なんてここからだいぶ遠いだろ」

「……」

「お前が火をつけたのか?」

「……」

「誰かから頼まれたのか?」

「……」

「何か答えろ!」

鍬下は激昂して机をドンと叩いた。大野は少しだけびくっとしたが、やはり沈黙したままだった。