【前回の記事を読む】私には恋人がいる。彼は大手の出版社に勤めていて、真面目を絵に描いたような人。お付き合いも順調で、最近では結婚の話題も……
不可解な恋 ~彼氏がお見合いをしました~
ランチタイムのセールは、二十%OFFというもので、十二時から十三時までの一時間限定セールだ。私と真由は、その時間を『魔の一時間』と呼んでいる。それはかなり忙しくて、パニックになりそうになるからだ。でも、店長の長澤さんが必ずいるので、上手くさばいてくれる。頼もしい一面だ。
「お疲れ~。今日も『魔の一時間』無事に終わった?」
「真由……お帰り。今日もいつも通り凄かったよ。店長がいなかったらって思うと怖い」
「あはは、言えてる~」
真由と交代で私がランチに入った。私は休憩室でお弁当を広げ、LINEのチェックをする。お昼休憩の俊雄さんから、いつもメッセが入っているからだ。
『お疲れ様。僕はこれからお昼ご飯。今日は牛丼にしようと思ってる。亜紀も無理しないように頑張れ』
俊雄さんらしい優しい文面にホッとする。そして、返事を打って送った。
「嬉しそうだね。彼氏?」
突然背後から長澤さんの声がして、ビクンッとしてしまう。
「長澤さん、いきなり後ろから声を掛けないで下さいよ。びっくりします」
「あはは、悪かったね。で? 彼氏?」
「……内緒です」
「ふーん? 俺はいつでもOKだから、声掛けてね」
それだけ言うと、長澤さんはフロアに出て行った。
OKって……何が?
疑問だけが残る台詞を残され、私の思考に疑問符が飛び交うのだった。
真由に店長である長澤さんとの関係を打ち明けられたのは、二週間前の事だ。仕事帰りに二人でバーに行って、酔った真由が『内緒だよ? 実はね――』と自分から話し始めた。正直、初めて聞いた時には『嘘でしょ』って思ったけど、もう深い関係にあると聞いて、私は何も言えなかった。不倫しているという事で、長澤さんの奥様はどれだけ……その思いが強かった。
何でも、誘ってきたのは長澤さんの方からだと言う真由。甘い言葉で巧みに真由を不倫相手にしてしまった彼を嫌悪しながらも、首を突っ込む事はしまいと思った。本当なら『やめときなよ』と言うのが友達かもしれないけど、私は関わって泥沼になるのを避けたいという一種の『逃げ』に転じてしまった。