【前回の記事を読む】家を飛び出した夜、行く当てもない私に声をかけてきた“人物”――思いもしなかったその言葉とは……?
不可解な恋 ~彼氏がお見合いをしました~
南君の家の一室を借りる事に、全く抵抗がなかった訳ではない。やはり異性の家、それも私に好意を抱いている相手の家にいるという事を、俊雄さんが知ったらどう思うだろうか。いや、もうそういう事を考えるのはやめよう。俊雄さんは私ではなく、悠希さんを選んだのだから。
シェアハウスを始めた翌日、目を覚ますと美味しそうな匂いがした。
リビングに行くと、南君がエプロン姿で、おはよう、と声を掛けてきた。テーブルには朝食が用意されていて、どうぞと促される。
「凄い、これ南君が作ったの?」
「うん。料理は好きなんだ」
「いただいきます。――ん、美味しい!」
鮭のムニエルは絶品で、お味噌汁も美味しい。他人にご飯を作ってもらうなんて事は、実家の母以外では初めてだったので、感慨深いものがあった。
「亜紀ちゃんに喜んでもらえて、超嬉しい! どんどん食べてね!」
こんなに良くしてもらって良いのかと、逆に申し訳ない気持ちになる。そこでご飯は交代で作ろうと提案をした。
「マジ!? 亜紀ちゃんの手料理が食べられるなんて、すげー幸せ!」
朝食を堪能した後、一緒に家を出て、職場である『JAM』に向かった。
もう南君はすっかり接客に慣れていて、お客様からの評判も良い。
「亜紀ちゃん、バックヤードに行って、このシャツの色違いがあるか確認してくれる?」
「分かった」
どっちが先輩だか分からない程の働きぶりを見ると、頼もしく思える。
「南君。このシャツの色違いは、もう二色しか残ってなかった」
「おお、似合う色があるじゃん! お客様、こちらの色のシャツの方が、お似合いですし、絶対彼女が喜びますよ!」
お客様は喜んで購入してくれた。セールストークも上手いし、非の打ちどころがない働きに、長澤さんも満足している様子だった。
「亜紀……」
か細い声が背後からした。降り向くと、俊雄さんが佇んでいた。
「どうして……」
「飛び出してから、随分と探したんだよ。スマホの調子が悪くて連絡ができなくて、ごめん」
「何? 何で謝るの? 探して欲しいなんて頼んでもないよ。俊雄さんは悠希さんと一緒になるんでしょ? だったら私の所じゃなくて、彼女の所に行きなよ」