私は何故か冷静だった。あれだけ頭に血が上って飛び出したというのに。
「荷物はその内取りに行くから。あ、ちゃんとお別れを言ってなかったから探してたの? 私の方はもう気持ちを切り替えたよ。これまでありがと。悠希さんと幸せにね。離婚届は私の方から俊雄さんの家に送るから」
「亜紀……」
今にも泣きそうな顔をする俊雄さん。私は意外にも冷静だけど、俊雄さんのそんな悲しそうな顔は見ていたくなかった。
「今、仕事中だから。さよなら」
それだけ言うと、私はお客様の対応を始めた。
その日、南君の家に帰ると晩ご飯の準備を始めた。調理をしていると、僅かの間だったけど、俊雄さんと過ごした幸せな結婚生活が思い浮かび、涙が溢れてきた。
「ただいまー。って亜紀ちゃんどうしたの!?」
「玉ねぎで、涙が」
精一杯の笑顔で答える。
「今夜は肉じゃがね。私の得意料理の一つなんだ」
「……そっか。楽しみ!」
玉ねぎで出る涙の量じゃないのは、南君にも分かっただろう。それでも敢えてスルーしてくれたのは有難かった。
「はい、できたよ~」
「おお! 亜紀ちゃんの手料理! うん、美味しいよ! 良いお嫁さんになるよ、亜紀ちゃんは」
「ありがと。でも、きっと……私はこの先、結婚はしないと思う」
「傷付くのが怖いから?」
「え?」
ドキリとした。もう裏切られるのは嫌なのは確かだし、傷付きたくないのも事実。それを見透かしてしまう南君の勘の鋭さに驚いた。だから私はこう言った。