それは私がずっと抱えてきた幼少期からのコンプレックスや自身の家族への違和感などを圧倒的に消し去るほどの威力を持つものだった。
虐待(全種類を網羅)に殺人未遂、近親相姦⋯⋯一冊の小説が書けそうなネタを、いくつもミックスして煮詰めたような人生が先輩にとっての二十余年だったのだ。こと異性関係に関して先輩は常にクリーンだった。
私の姉は先輩と年が近く結婚し子どももいるが、白昼堂々不倫をしている。その話を妹の私に言うことで精神を保っているようだし、そういう異性関係を持つことにそこまで大きな罪悪感は持っていない。
それよりもホテル代をどちらが出すかといった小さなことで日々真剣に悩んでいて、少し笑える。ただ先輩はそれと大きく異なる。
私はどうしても先輩と共有したくて分かち合いたくて同じ土俵に立ちたくて⋯⋯一緒に男遊びをしたい、羽目を外して取り返しのつかないところまで一緒に行ってみたい、と思うのだが、どうしてもそれが叶わないのだ。
夫一筋。子一筋。いや、本当にそうなのか?
「最近、司さんとはどうなんですか?」
「どうって、帰ってこないって」
「ずっとじゃないですか。心配にならないんですか」
「うん別に。それが司だから」
「つっよーー」
次回更新は9月15日(月)、19時の予定です。