【前回の記事を読む】男と会うとき、特段何も思わない。ただただ今日はできる相手なのかどうか。私は高校生以来、我を忘れるような恋をしていない…
分身の男
米ちゃんはいつも聞いてくれる、司と私のことを。
司は私の人生の伴侶だ。
私は結婚なんてしてたまるものかとずっと思って生きてきた。周りで普通に恋をし、普通に家庭を持ち、普通にその生活を継続できた人間を知らないからである。普通ってそもそもなんだっけ、という議論はここでは要らない。
なぜなら「普通なんてそもそもないんじゃない?」「あなたが普通だと思えば、それがあなたの世界の普通になるのよ」だなんて生ぬるいことを言えるほど、起伏の小さな人生ではなかったのだから。
両親の愛を知らない。同じ人間たちが何年もメンバーチェンジすることなく一緒に生きていく経験などしたことはないのだから、いざ自分がしてみようだなんて思わなかった。
結婚すればきっと離婚するだろうし、子どもを産めば愛せないだろう。下手をすれば虐待してしまうのではないか、愛情がわかないのではないか、と本気で恐れていた。
その恐怖心があるうちに(私は絶対に結婚しません。母親になどなりません)と決意を固め周囲にアピールすることが得策だと思え、ずっと実行してきた。
だがしかし、想定外であったのが、夫との出会いだった。顔立ちが良く、いわゆるモテそうな風貌。話が面白く、頭の回転が早い。
学歴は高くないのに、会話の端々や仕事の進め方から賢さを感じさせる。彼は、口は悪いが笑うとかわいらしく、そして愛した女にとびきり優しい人間だった。
彼が母子家庭で育ったことも私にとってはプラスの材料でしかなかった。私には劣るが、私がこれまで出会った人間の中においてはもっとも稀有なストーリーを持つ人だった。
そんな彼を自分の家族にしたいと思った。私なしでは生きられないような人間にしたかった。彼だからこそそれが叶う気がした。私の方がより多く稼ぐこと。
彼にとって常に私がプラスの存在であれること。私は受け取る側であることを望まなかった。受け取るのではなく、自ら定期的に水を、時々うんとたくさんの肥料を与える対象を求めていた。
依存する相手ではなく、依存してくれる誰かを探し求めていたのだろう。地方なのに四千万円もするマンションを買うと私は決め、