いつだって、どこか冷めていて、適切な距離を保っていて(もっとも守らなければならないのは、この私なのだ)と言い聞かせ、確認しながら恋をしている。
私は先輩が分からない。分からないから知ろうとしてきた。それはまるで先輩を研究対象にでもしているような、それくらいの意気込みで私は公私ともに先輩を見つめてきた。
私が入社した時、先輩は三年目のアナウンサーで、人手不足が著しい地方局では三年目といえばもうベテラン。
夕方のメイン番組でメインキャスターをはっていた。私は元々女子アナなんてもっとも好ましくない人種として認識している。
無駄に自己肯定感が高くて、最初は小さかったはずの承認欲求を(それでも女子アナを目指す時点で一般女子のそれとは比較にならないほど大きいのだが)年齢を重ね後輩を増やすほどに、腐らせ拗らせていく人間だと定めていた。(その認識自体は今もそれほど変わってはいない)
ただ先輩は一人だけ違っていた。明るくて可愛くて、だけど誰よりも暗くて、いつも心はどこか遠くに置いてきぼりで、疲れて気が抜けている時なんて本当に死んだ魚のような目をしていた。
面白いほどに、眼の奥が、内側から死んでいた。そして何やらがむしゃらに働き(何がここまでこの人をそうさせるのだろうと私は度々思った。社会人が皆一様にそのようなのかと思えば、決してそうではなかった)、がむしゃらに稼いでいた。
先輩の浮いた話は聞いたことがなく、ずっと同じ人と付き合っていて、そのまま在職中に結婚し、妊娠し、出産した。
母になった先輩とは、どうしたって超えられない厚い壁ができるだろうと、私のこれまでの友人関係から想定していたが、それは浅はかで安直な考えだったとすぐに分かった。
母になっても先輩は先輩だった。むしろその事実が、私の先輩への愛を深めさせた。先輩はどうやらかなり複雑な生い立ちを抱えているらしかった。