【前回の記事を読む】鴉組織との死闘を経て姿を消した最強の忍び冬星──その背後に迫る異常気象と新たな戦火! 比叡山を駆ける少年忍びの運命は?
第一章 蓮華衆(れんげしゅう)
四間(よんけん)ほど(七メートル)先を歩いていた義近の下には一粒も雨が当たっておらず、源三郎らがついて来ないことに気づいて振り返った。そのとき初めて異変に気づいた。
義近はその光景に、驚愕した。横殴りの雨の一粒一粒が、鋭い──水の矢に、変わっていったのである。
正確にいえば雨なのだが、何百何千という針のような水の矢が、修験の集団めがけて雨霰(あめあられ)のように降り注いでいた。
修験の集団は全身を無数の水の矢で打ち抜かれ、まさに蜂の巣のように体中から血を噴き出し、ことごとく伏臥(ふくが)した。
「ぐわっ!」
「ぎぇーー!」
それは阿鼻叫喚(あびきょうかん)の絵図だった。
源三郎は左肩を打ち抜かれたが、咄嗟(とっさ)に身を伏せ木の陰に隠れたため、一命をとりとめた。
源三郎以外の修験者は全員絶命した。まさに一瞬の出来事であった。義近は腰を抜かした。初めての戦いの場面に遭遇し、その壮絶さに戦慄を覚えた。少年にとっては無理もないことであるが、実戦ではこの非情さが常である。
雨は何事もなかったかのようにぴたりと止み、森の中に静寂が戻った。しかし木の幹には無数の水弾の穴が開き、その〝攻撃〟の凄(すさ)まじさの爪痕を残している。静寂を破るかのように甲高い声が響き渡った。
「おお怖い、怖い。お裕(ゆう)さんは怖いお人だね。絶対に敵に回したくないよ。あれだけ離れていても、正確に術を放(はな)つことが出来るんだね。水の幻道(ガイ)波術〝雨飛氷刃(うひひょうじん)〟は最強だね、誰も逃げられないわ」
源三郎は声のする方を凝視した。なんと頭上の高い木の枝に、若い女があたかも鳥のようにとまっていた。