【前回の記事を読む】人といるうちは、この状態になってはいけない…頭痛が通り魔のように襲う。薬の量は減らしたのに...
ウツギ
颯斗くんが絵のうまいことは知っていたし、その話を毛嫌いしていることもなんとなく普段の言動からわかっていたから、「あー! 朝桐さんごめんなさい! これからこの人予定あるのでまたでいいですか? じゃあ!」と無理矢理二人を引き離した。
その時、颯斗くんの額から左頬にかけて、流れ落ちる焦りの粒が見えた。
「うん。颯斗くん、何も言えてなかったし、なんだか辛そうにしてたから」
あんな颯斗くんは見たくないと思った。けど……。
「そうなんだよなあ。でも個人的にはまた絵をやってほしい気持ちはあるんだよね。あいつ、本当に絵を描くのが好きなんだ。それは自分が一番よくわかっているはずなのに」
和也くんは、颯斗くんの話をする時、目がいつもに増して澄んでいる。本当に颯斗くんを大事に思っているのが伝わる。でもそれだけではない気もする。
「全然関係ないんだけど、和也くんはなんでそんなに颯斗くんに尽くしてるの?」
和也くんは、意外といった表情を私に向けた。愚問だと言いたいような、そんな感じ。
「え、そりゃ幼馴染で親友だからね。当たり前じゃない?」「うーん。にしても和也くんの行動はすごい気がするな。今日だって、実は部活の人からカラオケ誘われてたでしょ?」
私たちと校門で会う前、和也くんの行動は早苗からメッセージで知らせを受けていた。早苗は小さい頃から根っからのバスケ少女だったので、和也くんと同じくバスケ部の体験入部に顔を出していた。
和也くんのあの開けっ広げにものを言う性質と、快活な性格から湧き出る魅力に惹きつけられてなのか、そこでもすぐ人気者になり、体験入部後に上級生からカラオケに誘われていたけれど、それとなく断り、急いで帰ってしまったという内容だった。
「なんで知ってるの?」
「さあ、なんででしょう? とにかく、自分の時間を犠牲にしてでも、颯斗くんのために行動してるように見えるからね。親友だからって、そんな単なる括りからくる動機なんかじゃ、なかなかそこまでできないもん」
私の発言がよほど驚嘆するものだったのか、和也くんは素っ頓狂な表情を浮かべていた。
「まだちゃんと学校始まって数日なのに、よく見てるねあかりちゃん」
どことなく、私の思慮の浅さを想像していた彼の心情が、言葉の節々で見え隠れしているような気がしたけれど、そこは突っかからないことにする。
「こう見えてもわかる女ってこと? 嬉しいー!」
ここはいつもの、元気な感じで振る舞うのが妥当だろう。「ははっ。そういうことにしとく。そうだなあ。恥ずかしいし、理由は秘密にしてくれる?」
「もちろん! 私は約束を守る人間だよ」
秘密。その言葉に不穏な感情の兆しが心中に現れたけれど、それを必死に隠した。