Nとは学校こそ違え、高校時代からのかけがえの無い友人であった。彼と初めて言葉を交わしたのは、高校の部落問題研究会に所属していた、ある友人の家を訪ねて行った折、たまたま出くわし、その友人に紹介された時であった。その時、我々二人は何故かすぐに打解けて意気投合し、まるで旧知の間柄であるかの様に親しくなったのであった。
Nは、いわゆる同和地区の出身者であった。果たして、こんな言い方が許されるのであろうか。
それから暫くして、彼が暮らしている家を初めて訪ねて行った時、殺風景で、まるで乾いた様な景色の中に雑然として建つ、古くて薄茶けたバラック風の長屋のあまりのみすぼらしさと、いつもの彼から受ける聡明さとのギャップに、はっきりした理由は分からぬが、何故かいけないものでも見てしまったかの様に、僕は軽いショックを受けた事を覚えている。