一気呵成にとは、この様な事を言うのであろうか。その間ひと言もしゃべらずに、全く黙ったままでいた僕の顔をつくづくと眺めながら、しかも半ば呆れたという表情で、こちらの弁明を全く許さぬかの様に、そう言って僕を責め立てるのであった。

その日、僕は学生時代の友人の入江からの紹介で、彼のおばさんの家を訪ねたのであった。彼から前もって、僕の事を色々聞かされて興味もあったのであろう。そして僕の方も、ちょっと風変わりでお節介なおばさんである事は、予め聞かされていて、ある程度覚悟はしていたのだ。

それでも、ずけずけと話す遠慮のない彼女の詰問口調の問いかけに、思わず僕はたじろいで、ただ頭を搔いて苦笑いを浮かべている事しか出来なかったのである。それでも、最後にもう一度頭を下げ、「有難うございました」と短い一言だけを残すと、振り向きもせず、ただそそくさと逃げる様に、その家を後にしたのであった。

僕の中に残っている自尊心がストレートに傷つくには、彼女の話しぶりはあまりに率直であった。しかし、その日の僕が全く無傷で彼女の元を辞去した訳でもない。あからさまな人格否定には、もうすっかり慣れっこになっていたというのに。

そしてその帰り、電車に乗ろうとしていた矢先の事であった。時間つぶしにと、駅の売店でたまたま買った早刷りの夕刊を何気なく読んで、僕はNの早過ぎる、そしてあまりに酷く悲し過ぎる死を知ったのである。

Nは、半ば身を隠す様にして住んでいたアパートの一室で、しょぼしょぼと雨のそぼ降る晩、敵対するセクトに襲われて、全身を鉄パイプやバールで滅多打ちにされ、それまでの、ひと一倍誠実で有意義に生きて来たはずの彼の人生が、不条理にも、まるで何の意味も無かったかの様に、いや、それよりも好きになったひともいたであろうに、誰にも知られず、一人非業のうちに哀しく死んでしまったのである。