しかし、家に帰ると当たり前のように妹達が居て、よく泊まったりもしていたので、家に帰りたくない日もあれば、妹達が居るからと甘えて遊びに行く事もあった。
弓子も同じマンションの別階に住んでいたが、勝也の子供とはまったくと言っていい程付き合いはしていなかった。紗香の家族間では弓子の事を、「孫が可愛くないんかな?」と言うような捉え方をしていたようだ。勝也も少し大人になり大体の事は理解できていた。弓子は江美の喫茶店で働かせてもらっていたので、立場的には下だったのだ。
弓子は男っぽく気の強い性格だったが、江美には昔からお世話になっていたので絶対に逆らえなかったようだ。
弓子は常々「お母さんの事はええから、紗香の親を大切にしろ、江美ちゃんには本当に世話になったからな」と言っていた。同時に勝也の目には、江美の事を恐れているようにも見えていた。
弓子と江美
江美がスナックを始めた当時、彼女はスナックなどに行った事がなかったようで、弓子がスナック経営のノウハウを教えたようだ。弓子は16歳の頃から父親の借金の肩代わりにスナックで働いており、その後もお酒が大好きだったのでプライベートでもよくスナックへ飲みに行っていたようだ。江美のスナックは弓子のプロデュースといった感じだろう。
そういった事情から、マンションへの引っ越し費用や家賃の補助もしてくれていたようだ。その後、スナックは順調に流行り、江美は自分の姪っ子を県外から呼び寄せ、同じマンションの部屋を借りて住まわせ、スナックで働かせた。
最初は長女、そして次女、おまけにその友達まで、合計3人の若い女性達を雇っていた。そうなると弓子は必要なくなり辞めさせられた。というより、辞めざるをえない状況に追い込まれたという方が正しい。
その日、いつも通り営業前に店に入ると、姪っ子の居る前で「この店の人は換気扇の掃除もできないのか」と罵られた。換気扇なんか大掃除の時しか掃除していなかったのに、普段の日に言われたのだ。
弓子はそのまま「辞めさせてもらうわ」と店を後にしたそうだ。