五 絹の髪
四日目の晩になると、宗佐はまるで膝頭を寄せ合っているかと思うほど、姫の存在を間近に感じるようになっていました。
語り合う言葉はより心濃やかなものになり、時折混じる笑い声はよりしめやかなものになり、会話の合間の沈黙はより意味深いものになっていました。それに応じるように、宗佐の吹く笛の音色もまた、より自在で表情豊かな、熱い思いのこもったものになっていました。
姫に求められて、西行法師が詠じた花の歌にちなんだ調べを即興で吹いているさなか、宗佐は衣擦れの音とともに、姫のにじり寄る気配を感じ取りました。自分の膝の上にその手がそっと載せられたのを感じた時、それまでいかなる時にも決して落としたことのなかった笛が、手のひらから畳の上にほろりと転がりました。
激しい胸のときめきとともに、宗佐が細く冷たいその手を握り、胸元に引き寄せるのと、姫が柔らかに抱きすがって来るのとが同時でした。
衣に焚き染められた橘(たちばな)が甘く爽やかに香りました。か細い肩を広い胸の中に抱き包むと、しなやかな両腕が緩やかに背中に回るのを感じました。ため息のように、姫様、とその耳元に囁くと、そなたのもとではわたくしは姫ではない、ただのおなごじゃ、と悲しく甘えるような声が応じました。
抱く腕にさらに力を込めると、宗佐は絹のように緻密で豊かな髪が頬を圧し、百合のような甘い吐息が胸元を撫でるのを感じました。震える指でたどったその顔に、宗佐は卵型の輪郭と、薄紅色の柔らかな頬と、湾曲した長いまつげと、清らかな額と、はかなげな眉と、つぶらな瞳と、控え目に突き出た鼻と、つぼみのような唇を感じ取りました。
「宗佐、そなたが愛しい」
「沙代里殿、お慕い申し上げております」
胸の奥からほとばしるような言葉を交わすと、二人は互いの存在を求め合うかのように激しく抱き合い、しばし時を忘れました。
やがておのずから湧き上がる勢いの導くままに、宗佐が姫の長い髪を耳の上に優しくかき上げ、鶴のように細いうなじに右手を差し入れ、その可憐な顔をゆっくりと引き寄せ、ほころび始めた花びらのような唇におのれの口を重ねようとした、その刹那です。
「姫様、夜明けにございます」障子の外から、侍者の差し迫ったような囁き声がかかりました。
「ああ、短夜が恨めしや、今宵もお別れせねばならぬ。宗佐よ、明晩もきっと参ると約束してくれるか?」沙代里姫は弾かれたように宗佐の胸元から身を離すと、熱くすがるような口調で尋ねました。
「この身にかけて、お約束いたします。何があろうと、必ず参ります」
宗佐が力強く答えると、その言葉忘れぬと言い残しながら、姫はあわただしくどこかに去って行きました。