男性は顔を上げ、くるみの顔を視認する。
(こんな顔だった、気がする……!)
「あのときは、本当にすみませんでした……。とてもお見苦しいところをお見せしてしまって……」
「いえ、そんなことありませんよ」
「ハンカチ、あまりに汚してしまったので新しいものを買ったんですが……」
ハンカチの包みを差し出す。すると笹川は驚いたようで、目を見開いた。
「そんな、申し訳ないです。わざわざ……ありがとうございます。むしろ余計なお節介で手間を掛けさせてしまいました」
「いえ、そんなことないです! 本当に、あのときは笹川さんに声をかけていただいてよかったと思ってるんです。その……醜態を晒したことは別として」
赤の他人の優しさが心に刺さることもあるのだと、くるみはあのとき初めて感じた。あのとき笹川がいなかったら、あの場で泣いてしまって誰かに見られたかもしれない。
「では、ありがたくいただきます」
「はい。もし違うものだったらすみません……」
「いえ。あまりものに頓着しない性分なので。それより、それって今日のランチですか?」
「え? ああ、はい」
笹川はくるみの持っているビニール袋を指差した。
「よければ、一緒に食べませんか? いい天気ですし、仕事の息抜きにでも」
自分の隣の空いているベンチに目配せをしてくれた。笹川の優しい表情に、ついくるみは腰を下ろす。最近ずっと顔見知りの人間と話をしていたから、違う人と話したかったのかもしれない。
次回更新は8月7日(木)、11時の予定です。