「少なくとも金曜日にはいただけるよう、打診してみます」

「ああ。頑張ってくれよ、水瀬。これは評価に関わってくるぞ~」

大手を引っ張ってきたことで、課長の機嫌がぐんと上がったのがわかる。期待されるこの感覚は久しぶりで、悪くないと思えた。

課長に提案書を見せてすぐ、くるみはランチに出向いていた。いつもコンビニと会社を往復するだけだが、今日は違う。

(えーっと……12:30に噴水広場の近くのベンチ……)

謝恩パーティーの日、くるみにハンカチを差し出してくれた相手にハンカチを返すため、待ち合わせをしていたのだった。

(あと5分、間に合うよね?)

コンビニでサンドイッチと、ストレスに効くという触れ込みで売れているらしいチョコレート菓子を買って自動ドアを出る。

相手の名前は笹川幸博。名刺を見る限り、近くにある大学で建築学科の助教をやっているらしい。あのあと名刺に印刷されたLINEアカウントのQRコードを読み取り、連絡をつけたのだった。

さすがにクリーニングに出すとしてもメイクや鼻水が一度ついたものを返すわけにはいかないと思い、近くの百貨店で営業帰りに同じハンカチを同じブランド店で買った。

男性向け老舗ブランドに若い女性客はやや浮いたが、同じものがあった安堵のほうが勝った。

噴水広場にやってくると、指定されたベンチにすでに人が座っていた。

(確か、あんな感じの人だったような……?)

あまり鮮明でない記憶をたどりながら、目の前の人と過去を照合する。

(この人、だよね……?)

もう時刻は12:30、ここにいるのに遅刻したように思われるのは嫌で、くるみはその男性に歩み寄った。

「あの、笹川さん……ですか?」

「はい、そうです」