「これは……」織部は高田と顔を見合わせ、腕時計をじっくりと眺めた。しばらくすると織部は「間違いない」と言った。織部から腕時計を手渡された高田も、その時計を検分したのち、「クオーツユニバースのプロトタイプに相違ありません」と、声を震わせた。
「少しご説明が必要ですな。みなさんは、クオーツ時計というものをご存じですか」
織部の言葉に反応できた者はひとりもいなかった。
「クオーツ時計とは、水晶の振動子によってきわめて正確にリズムを刻む時計のことで、半世紀前に世界で初めて開発したのが当社となります。しかしながら、その原型となる時計の行方がついぞ掴めず、長年にわたって探しておりました。そこでついに、本物に出会えたということです」
「そんな大切な時計が、どうして我が家に?」節子は不思議そうに話した。
「失礼ですが、お亡くなりになったご主人のお名前は?」
「和志です」
「小島和志さん? もしかすると、若い時分に当社に在籍していたことはありませんか」
「英光舎に勤めていたかどうかは聞きませんでしたが、結婚前、修業として時計会社で丁稚をしていた話は聞きました。辞めるときには会社に残るよう慰留されたそうですが、企業の歯車になるのは性に合わないから断ったと言っていましたね」
「やっぱり!」織部が急に声のボリュームを上げた。