三郎商店街のサブちゃん

北風が強く吹く夜だった。仕事を終えた市瀬は、早歩きで三郎商店街の事務所へと向かっていた。

かつて賑わったアーケードは薄暗く、人影はまばらだ。シャッター通りと言われて久しいが、日が経つにつれ、その寒々しさはいや増すばかりだった。ここに噂の大型スーパーが進出してきたらと思うと、暗澹(あんたん)たる気分になる。

目的地の建物の前に来ると、二階の事務所の窓から煌々と明かりが漏れている。一階はかつて文具店だったが、十年以上前に店を閉め、シャッターが下りたままだ。市瀬は外階段を上り、事務所の扉を開けた。

「すまん、遅くなった」

市瀬は右手で手刀を切った。

「何、構わんさ。番台は佳代さんに任せたのかい?」

八百屋の鈴木にそう聞かれた市瀬は、

「ああ、と言っても、これだけ寒いと客が来るのか怪しいが」と、正直に言った。

「寒い日にこそ銭湯で熱い湯に浸かるのがたまらんものだけどなあ」

大工の棟梁の山本が音を立てて禿頭(とくとう)を叩き、

「よし、本題に入るか」と言って湯呑のお茶をぐいと飲みほした。

「サブちゃんの話だな。あれからどうなった?」

市瀬は自分のお茶を淹れながらそう言った。