【前回記事を読む】【短編集】商店街に迷い込んだ男「サブちゃん」。名前や住所を聞いても「わかりません」と繰り返すばかりで…
三郎商店街のサブちゃん
「今度、三人で遺品の整理に参ります。後でご都合のつく日を教えてください」
市瀬がそう伝えると、節子は「本当にありがとうございます」と言った。遺品整理の手伝いは、三郎商店街ならではの風習だ。といっても、故人の私的な領域には立ち入らず、大掃除をするという暗黙の了解がある。
三日後の昼、相談役の三人は時計屋に出向いた。気落ちしているかと思ったが、節子は意外にも元気そうだった。縁側ではサブちゃんが日向ぼっこをしていた。
「思い出の品以外は全部処分しようと思うの。それでね、この辺の家具をお庭に出してもらってもいいかしら。今度の粗大ごみの日に引き取りにきてもらうから」
節子が申し訳なさそうに言うので、市瀬は「お安い御用ですよ」と、軽く請け合った。市瀬はサブちゃんに声を掛け、洋服箪笥や布団類を次々に庭に運び出し、衣類を次々とゴミ袋に入れて口を結んだ。家の中はどんどん片づいていった。
「みなさん、こちらの時計を見ていただけませんか」
居間で一休みしていると、節子が顔を出し、年季が入った腕時計を卓袱台に置いた。 「こんな時計、初めて見たわ」娘のあずみが首を傾げた。
「英光舎のロゴ入りか。妙に風格があるなあ」
骨董品に目がない鈴木が腕時計を手に取った。
「引き出しの奥にしまってあったのを、サブちゃんが見つけたんです。もしかしたら価値のある時計なのかもしれないと思って」
節子が話すそばで、サブちゃんはゆうりと一緒に饅頭を頬張っている。
「じゃあさ、私がインターネットに写真を載せてみるよ。世界中の人に情報を発信すれば、何か手掛かりが掴めるかもしれないでしょう?」