【前回記事を読む】「こちら3億円で譲ってください」——父の唯一の形見にそんな価値が!?さらに処分しようとしていた紙切れが時計の設計図で…

三郎商店街のサブちゃん

「サブちゃんはどこから来たんだろうな」市瀬はしみじみと言った。

「そうだなあ。最初に発見されたときはみすぼらしい恰好をしていたし、自由気ままにホームレスでもしていたんじゃねえのか」そう言って鈴木がサブちゃんを見やった。サブちゃんは何も言わず、笑みを浮かべているだけだった。

唐突に、サブちゃんの隣の席からゴホン、と大きな咳払いが聞こえた。暗がりの中で目を凝らすと、サングラスを掛けたいかめしい男がグラスを傾けていた。

「すみませんな、聞くつもりはなかったんだが」サングラスの男は視線をグラスに向けたまま、野太い声で言った。どうやら、市瀬と鈴木に話しかけているらしい。

「この商店街は昔ながらの懐かしい雰囲気があって、居心地がいいですなあ。でも、大型スーパーが進出したら、どうなるかわかりませんなあ」

サングラスの男は片方の口角を引き上げ、「ご馳走様」と言って去っていった。

「見たことのない顔だねえ」

ママのりえがいぶかしげな顔つきになった。

市瀬は鈴木と顔を見合わせた。妙な胸騒ぎがした。

一週間後、市瀬はサブちゃんの様子が気になり、佐藤の家を訪れた。呼び鈴を鳴らすと、いかにも面倒そうな顔で宏が顔を出した。

「お、不良息子か。サブちゃんはいるか?」

市瀬が聞くと、宏は無言でうなずいた。

何やら不貞腐れた顔をしている。

市瀬が畳敷きの居間に上がると、サブちゃんがこたつで暖を取っていた。

「おう、サブちゃん。元気かい?」

市瀬があいさつした。