「おかげ様で。毎日おいしいご飯をいただいていますからね」
サブちゃんが笑顔を見せると、
「こいつは本当に大飯食らいでよ、いつもご飯をおかわりするんだ」と、宏が応じた。
「こら、宏。目上の人に向かってこいつ呼ばわりはねえだろ」
市瀬は口の悪い宏を諫(いさ)めた。宏はきまりの悪そうな顔でこたつに足を突っ込んだ。
「だってよ、サブちゃんが俺に説教するんだよ」
宏が子供のように口をへの字に曲げた。
「いやね、宏さんは性根がやさしいのだから、悪い仲間のところへ通うのはもうおよしなさいって話していたんです」
サブちゃんの声音(こわね)がいつもと違う。真剣に宏を諭している。
「そりゃあよ、俺の友達は優等生ではねえよ。でも、みんな仲間思いのいいやつなんだ」
宏が小さい声で反論した。
「でも、宏さんの仲間は未成年で、分別がついていません。私は一度アーケードで見かけましたが、宏さんたちに命令しているのは、サングラスをかけた男ですよね?」
サブちゃんの言葉に反応した市瀬は、
「ひょっとして、スナックに来ていたあの男か?」と聞いた。
サブちゃんは「そうです、あの男です」と、答えた。
「私が見かけたとき、男は地上げがどうのこうのと話していました。宏さん、悪いことは言わないからこのへんで不良仲間と縁を切るべきです。でないと、酷い目に―」
「うるせえ!」