相談役の三人が口ごもっているうちに、あずみはスマートフォンのカメラで腕時計を撮影し、何やら画面に指を這わせて「これで良し」とつぶやいた。
「SNSに腕時計の写真をアップしました。新しい情報が入ったらお伝えしますね」あずみは屈託なくそう言った。節子が「何が何やらさっぱりわからないわ」と言ったが、市瀬も同感だった。
翌日、市瀬のもとにあずみから電話があった。SNSで腕時計の写真を見た英光舎の広報部の人間から連絡があり、当社で探している腕時計かもしれないので、ぜひ現物を見たいと言っているらしい。
「にわかに信じられん話だな」市瀬は正直な思いを口にした。
「じつは、私も半信半疑なんです。ただ、勢いに押されて約束をしてしまって。今日の午後に先方がお見えになるので、一緒に立ち会ってもらえませんか」
市瀬は「もちろん行くよ」と言って電話を切り、すぐさま山本と鈴木に連絡した。来客があったのは午後一時過ぎのことだった。
仕立ての良いスーツを来た男性が二名いる。そのうちのひとりである白髪の男性は、どこかで見たことのある顔をしている。
「突然お邪魔して大変申し訳ございません。英光舎代表取締役の織部と申します」
織部はそう言って節子とあずみに名刺を差し出した。市瀬は、かつてテレビで織部を見たことを思い出した。もうひとりの男は開発本部長の高田と名乗った。
「さっそく恐れ入りますが、例の腕時計を見せていただけますか」
節子は織部の言葉にうなずき、腕時計の入った箱を織部の前に差し出した。織部は革鞄から白い手袋を取り出して両手にはめ、うやうやしく腕時計を取り出した。