「俺が思うに、サブちゃんはあのツラがいいよな。ふっくらしていてご利益がありそうだよ」

山本の言葉に、市瀬は「違いない」と笑った。サブちゃんは恰幅がよく、いかにも福々しい顔をしている。

「それにしても、食費やら何やらで入用だろう。商店街の予算からいくらか小島さんに手当を渡す必要があるな」

鈴木が言った。

「それじゃあ、俺が明日にでも渡してくるよ。サブちゃんの顔も拝んでくるか」

市瀬はそう言って用事を請け負った。この日はそれで散会となった。

「この度はご愁傷様でした」

相談役の三人は小島の妻である節子に深々と頭を下げた。市瀬は遺影を眺めた。元気だった頃の小島が笑顔を見せている。

「相談役のみなさんには大変お世話になりました。ただの風邪だと思っていたら肺炎になって、まさかこんなにあっさりと逝ってしまうなんてね」

節子はハンカチで目頭を押さえた。

「さびしくなりますね」

鈴木がしんみりとした表情を見せる。

「でもね、こういうのは順番だから。それにね、最期は毎日楽しそうだったの。ほら、サブちゃんが来てくれたでしょう? いつも話し相手になってくれたから、生き生きとしていたわ」

市瀬はサブちゃんを探した。葬儀場の隅でパイプ椅子にちょこんと腰掛けている姿が視界に入った。やや窮屈そうな喪服を着ているのが滑稽だ。

「サブちゃんには夫の喪服を無理やり着せたんだけど、ちょっときつそうね」

節子がいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

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