「いかにも。そうであるが、信長のわしでは不都合でもあるのか」

「とんでもありません……」

驚いた結迦は、言葉が続かなかった。けれど、結迦はうれしくて、ドキドキしていた。

「もうひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「なんだ」

「安土での夜と朝方に、布団の中で私が感じた気配は、信長さまだったのかを知りたいのですが、信長さまで合っていますか」

「そなたが呼んだのであろう。俺は、声を聞いたので近くへ来てみたのだ」

「そうだったのですね。うれしいです。来てくださって、ありがとうございます」

「どれくらいの間、眠っていたのかさえ見当もつかぬが、わしを呼ぶ声で気がついた。名を呼ばれることすら、久しくなかったからのう。礼をいうぞ」

あの気配は、本当に信長さまだったんだ。その確信を得た結迦は、驚きとありがたいうれしさで、心が溶けそうなくらいに高揚感を感じていた。

これからこの先、どんなことが待ち受けているのだろう。またなにか新しいことを、体験することがあるのかな。あれやこれやと想いを巡らせているうちに、いつのまにか結迦は眠りへと落ちた。信長公と結迦のふたりでの、初めての地球地底探検の不思議な旅が、まさに始まろうとしていた。

淡い色合いのシルクの民族衣装をまとった男と女。親子に見えなくもないが、高くそびえ立つ山の中腹で、周囲に広がる圧倒されそうな景色を眺めている。そのふたりは、多次元への扉が現れるのを待っていた。

新しもの好き、西洋文化にも触れていた破天荒な信長公の心内は、どんな響きを奏でているのだろうか。その周辺にそよぐ風とふたりのオーラが互いになびき合い、更なる異空間へと徐々に移りゆくのであった。

陽が沈みかける薄暗い時間になると、竜巻のように吹き荒れる風と共に、時空が歪むように、その扉と思える光の環が出現し始めた。