その男は、ひょこひょこと会議室に入ってきた。ゴマ塩の短髪にメタルフレームの丸メガネ。
人事界隈では珍しく、スーツを着ていない。チャコールのナイロンジャケットに、ライトグレーのパンツ、細いストライプのシャツ姿。なんだか、軽い。
【ポストスキル~思考の枠をこわすための、新習慣開発】――企画書には、そうあった。研修会社を通じて声をかけてもらった他の講師たちは、聞き覚えのある思考法を、終日ワークショップや週1日×3回コースなど、育成担当にわかりやすく、受講者にも提供しやすいパッケージで提案してきた。
その男の企画書だけには、従来の教育研修らしいフォーマットがなかった。
「創造性の練磨に、ああやって→こうやって→ほらできた、という解へのフォームがあるとは思えません。受験勉強とは違います。まずは仕事や暮らしの中で、さまざま起きている小さな出来事をたくさん感じ取り、自分なりに解釈する。技術解析や市場分析とは別種の、多彩な気づきを生むクセづくりが、初動なんです。
ところがいま、周囲や世界を洞察する気持ちが萎えていたり、ピンときたことにあらかじめ論拠がないと、言い出しにくかったりしていませんか。ヘタをすると、予定調和どおりにピンときたりしている。特別な思考法を使う以前に、ものごとをいつも主観的に知覚する習慣づくりが、創造性の根本課題だと思います」
Keiさんのとなりには、人財開発畑のキャリアが長いグループリーダー、石橋美紀が同席していた。テキパキと着実に任務をこなす、信頼できる同僚が面談を仕切ってくれる。
次回更新は7月23日(水)、11時の予定です。
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