【前回記事を読む】正社員とパートの間に生じる微妙な溝を埋めたい! 職種や職階を越えて、テーマは決めず世話ばなしをする"井戸端会"とは?
第一章 知覚センサー、機能不全
おれたちは和田さんに提案して、実験的に店の陳列を変えてみた。野菜はなるべくプラ皿を使わない。魚介はモノによって、氷を敷いた上に一尾ずつのせる小さなコーナーを設けた。
肉類も一部は量り売りにした。衛生管理の手順改訂や、改装コストもかかったけれど、客足も売れ行きも伸びた。
「お店が、むかしの商店街みたいになりましたね」お客さんが、笑顔で言った。
正社員もパートさんたちも、手の空いている時は野菜の盛りを直したり、職場の空気に賑わいが生まれた。近隣の高級スーパーからも、お客さんが流れるようになった。
なにより変わったのは、セクション間の創発だ。たとえば、厨房でひたすら魚を捌いていた調理スタッフが、陳列の様子を気にして頻繁に店頭へ出てくる。
そこで彼らは、以前より商品の目利きをするようになったお客さんの声と出会う。
「タイ料理風に、スパイシーな炒め物をつくりたいんですが、魚なら、どれがいいですか?」
「ホウボウはどうでしょう。三枚におろしますよ。あとは、メカジキも合いますよ」
こうした出来事が、井戸端会を通じて、総菜担当や販促チームと共有される。
「エスニックな味付けって、あまりやっていなかったわ」
「激辛のシール、つくってみようか」
「それ、試してみましょう」
本部からのデータだけに依存せず、効率ばかりで運営を考えず、毎日みんなで試行錯誤している感じが、楽しかった。
和田さんは、Keiさんの挑戦を評価した。そして、規模と立地によって導入可能なケースとして、社内でモデル共有した。