「ウチらしい創造性って、ああいうことが、はじめの一歩じゃないかと思うんだ」

「……マルシェ風の店舗デザインは、もうどこでもやっていますが」

「吉岡、デザインより気持ちの部分なんだ。私の反省は、あのとき店づくりの事例として、書類を撒いて済ませてしまったことだ。本当は事例を参考にせよではなくて、〈合コン〉みたいな活動を各地でどんどん起こすにはどうすれば良いのか、もっと根っこを考えるべきだった」

事例の共有だけではうまくいかない理由が、Keiさんにはわかった。あの時、自分の店では、正社員もパートさんも学園祭の準備をしているような〈熱〉をもったのだ。冷めた図面やマニュアルは、ひとびとの熱までは生まない。

――特別なアイデアを出したわけではなかった。おれがつくったのは、みんなが立場や規定にとらわれず、言い合って試し打ちができる、ぶっちゃけた場だけだ。

いまはそうした雰囲気を〈心理的安全性〉と呼ぶようだけれど、立派な言葉があるわりに、実際には、打合せ前の小さな井戸端タイムすら、無駄扱いしていないだろうか。

和田さんは、Keiさんの目をまっすぐ見て、話を続けた。

「人財マネジメントは、経営のど真ん中になる。そんな時代に、管理志向が強くて、人間より組織のシステムを優先するようなリーダーが采配を振るうと、人間が機械部品みたいになるだろう?

経営管理セクターには、社員の気持ちが会社から離れていくのは、自分たちの責任だと感じている人間が少ない。現場に変われというのならば、最初に思考を変えるべきなのは、私たち本社筋だ。吉岡なら大丈夫だと思う。

キミは上から現場を見おろさない。むかし、あの個店を見に行った時に、パートさんから『楽しい職場にしてくれて、ありがとう』って言われたよ。私は、あのひと言が、ずっと心に沁みているんだ」