【前回の記事を読む】母が急に亡くなった。「凄く幸せだったよ。でも父さんに会いたいから、悲しまないでね。父さんが待っているの」と言って…

第五章 これからも二人で

年末、最後の出勤だ。さぁ、行くか!

「香子、行ってくるよ」

「はい、いってらっしゃいませ」と、頬にキスをした。

 

退職後、庭の家庭菜園を広げて、大根やカボチャ、ナス、オクラと植えている。雨靴と麦わら帽子で鍬を持ち、汗を拭きながら、楽しんでいる。軽トラックを買って、農協へ土、肥料とよく買い物に出かけている。

午前中は畑を楽しんで、午後は私の側で本を読んでいる。

今日は、英語の辞書を読んでいる。ジョー君が泊まりに来る。ジョー君が大好きな、スライスの玉ねぎの上に牛肉炒めと焼き魚、ジャガポークだ。

好みが丈哉さんと似ている。それが嬉しいらしい。外せないのが、香おはぎ。私も楽しみだ。

穏やかな日々を二人で楽しんでいる。

夕飯の準備も終わって、庭で雑草を取っている丈哉さん。

「ハーブティーが入りましたよ」

「おおー、ありがとう」

ハーブティーを飲みながら、優しいまなざしで、野菜達を愛おしそうに眺めている。

穏やかで、幸せだ。母の言葉を思い出した。

『香子、六十才を前にすると、体力が落ち、手先が不器用になるの。老いを感じるけど、父さんが私に優しくなるの。そしたら、母さんもお父さんに優しくなるの。不思議にお互いを大切に思うの。どうしてか分からないけどね』

大切に思いあっているのね。

私達も、そうかもしれない。……違う! 丈哉さんは最初から、私を大切に思っている。母さん、ごめんね。私達夫婦の勝ちだ。何の勝負やら。ウフフフ。