【前回記事を読む】酔ってフラフラな女性が電車を降りていった。だが席には携帯電話が転がっていて…ハッとして拾い、俺は彼女を追った。

2 退化

芝浦② 2012年

翌日20時過ぎ、ショートメールが届く。

「昨晩はありがとうございました。携帯電話拾ってもらった者です。都合のいい日ありますか? 御礼させてください、アユといいます」

昨晩の女性からだった。

まさか本当に連絡が来るとは思わなかった。

あの後、ヒデジの店でことの次第を話していた。その際、もし連絡がきたら一杯サービスしてやると言われてたので、御礼分も含めたら2杯無料で飲める。ラッキー過ぎるできごとに、仕事もそっちのけでテンションが上がり、即返信していた。

23時前、私は仕事を終えて、秒速で田町駅前のTSUTAYAに移動していた。昨晩のアユという女性は既に着いていたらしく、2階のレンタルDVDアニメコーナーにいるとのことだった。それならと私も2階に上がりアユという女性を探す。

なんだこの感覚は、何故、御礼されるのに探しているのか、不思議な感覚だったが、ワクワクしている自分もいた。

辿り着いた時、女性はアニメコーナーの一角を見つめていた。私は声を掛け挨拶をすると、女性から昨晩の御礼を伝えられ、すぐさま、

「今敏って知ってますか? 私大好きなんです」と語りかけられ、

私はとっさに「知ってる、知ってる」と聞いたこともない、今敏という単語に知ったかぶりをする。するとテンションが上がったのか「どの作品が好きですか? 音楽良いですよね」など畳み掛けるように話し始めた。

しまった、何故カッコつけて、知ってるなどと、言ってしまったんだ。墓穴掘るパターンだ。

私は曖昧に返事をし、その場を乗り切ることにする。早々にアニメ話を切り替え、逆に質問した。

「何か食べたいモノある? お腹は空いてないか?」の質問に対して「大丈夫」との返答だったので、早速ヒデジの店で飲むことになった。