THCには常連客はおらず、店に入るやいなやヒデジは後ろの見知らぬ女性に対し、クールに「いらっしゃいませ」と挨拶をしている。私と女性はカウンターに座り、酒を注文する。ヒデジが、レー●ンブ●イとソルティードッグを作っている間に、女性から改めて昨晩の御礼を伝えられた。

私は昨晩のことは聞かないことに徹し、自分の話をすることにした。

仕事場は新橋で家電量販店のゴルフ売場の店員。仕事終わりの深夜や休日に都内でDJ活動もしている。駅を挟んで反対側に住んでいて、ほぼ毎晩この店で飲んでいる。年齢は29歳になったばかりで、O型だとも付け加えた。

その説明を終えると女性から、

今年30になる。血液型は一緒だと、笑顔で話し始めた。と同時に、ヒデジがレー●ンブ●イとソルティードッグを持ってきた。

「昨晩、話してた女の子だよ」

ヒデジは「どうも!」っと挨拶をし、ニヤニヤしながら、溜まったグラスを洗いに厨房へと姿を消した。

二人で軽く乾杯をし、お互いひと口酒を喉に流し込む。アユという女性も自己紹介を始めた。

舞台女優として活動しているが、前まではタレント業もこなしていた。仕事は職場の人と上手くいかず、もう辞めるがレストランの接客をしている。田町駅から徒歩圏内に友達と住んでいて、昨晩は仕事帰りだったとのことだ。

お互い同世代で、地元も東京ということもあり、いつの間にか会話が弾んでいた。すると「DJさんだったら平沢進、知ってますか?」との質問に対して、

ようやく知ってる単語が来たと肩を撫で下ろし、すぐさま、

「ベルセルクの曲作ってた人だよね。オレはベルセルクのオープニング曲歌ってたPENPALSが好きなんだよ」

と知っていても当然だい! 的な感じで話す。すると女性は

「PENPALSはベルセルクのオープニング曲だけ知ってます。確か実家にCDがあると思う」と。