【前回の記事を読む】「おじさん、家が見つからないんだ」――家族の名前を叫ぶもの、絶望して道に横たわるもの。皆一瞬にして家族も家も失っていた
第四章 真実
垢や煤(すす)で汚れた真っ黒な顔、その中にあるまだ幼い二人のつぶらな瞳を見ていると、涙が止めどもなく流れた。
「ごめんな、ごめんな」
戦争に加担し負けて、この子たちを路頭に迷わせた罪悪感に、胸が押しつぶされそうになる。気づけば二人の前に跪(ひざまず)き、何度も頭を下げていた。
ふうねえちゃんは、謝る僕をただジッと見つめている。へいちゃんは細い足で立ち上がると、僕の頭を撫でた。
「兄ちゃんのせいじゃないよ」
ふいに、ふうねえちゃんが口を開く。
「ここでね。毎日、死んでいっちゃう人たちがいるの。餓死だって、駅員さんが話してた。戦争なんかしなかったら、みんな死んでなかったよね。お父さんもお母さんも弟も犬のシロも生きてて、みんな一緒にいられたんだよね。どうして戦争なんかしちゃったのかなあ? みんな、いなくなっちゃった」
子供だというのに、涙も流さず淡々と、疲れ切った様子で話す彼女の顔をまともに見られず、僕の目からは涙が溢れでていた。
僕はどうしても二人を放っておけず、子供たちを救う方法を考えるべく数日ここに留まることにした。
へいちゃんを抱いたまま、薄汚れた壁にもたれかかり寝ていると、「平蔵、平蔵起きなさい」と、甲高い女の声が耳を刺した。
重い瞼を開けると、やけに化粧の濃い派手なワンピースを着た女が、僕らを見下ろしていた。
「母ちゃん!」