ふうちゃんを育てる余裕も自信もなかった僕は、この女性の連絡先を聞き、ふうちゃんをお願いすることにした。

ふうちゃんも女性の手を取り、安心した様子で去っていった。僕は、ふうちゃんの背中を見ながら、幸せを願わずにはいられなかった。

重い瞼を開け体を起こすと、体中の骨が軋(きし)むような痛みを覚えた。

枕の上についた手が湿る。汗にしては異常なほど枕が濡れていた。理由は分かっている。前世で流した涙の跡だ。

戦場とは違う、親を亡くした子供たちの悲惨な状況を目の当たりにしたからだ。前世の夢を見るたびに、戦争からは何も生まれず、大切なものを失うだけなのだと思い知らされる。

何者にも代えがたい、尊い命を粗末にするだけの戦いに、何の意味があるのだろうか。 お国のためと戦って傷を負い、戦えなくなれば仲間に見放され、復員兵として生きて故郷に帰れたとしても、愛する家族は戦争の犠牲となり行方知れずだ。

こんなことなら、たとえ命を失うことになろうとも、愛する家族のそばにいて守ってやりたかったと、後悔の念がやまない。

前世で生きた一郎の無念が、自分の心に棲みついて離れない。ため息がもれ、ぼうっとしていると戦時中の生き証人、ふくちゃんが階下から大声をあげる。

「光、朝ご飯よ!」

威勢のいい声に毎朝、現実に引き戻される。

 

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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