鷹見は案じて、捕り方を四つに分けた。
「東西南北に分かれ、あの離れを遠巻きから囲い込んで参れ」
奉行所と違い、大坂城の兵たちは即座にそして粛々と四散して行った。
カイは床に座り込んだまま動けなかった。何をどう考え、これから何をすればいいか全くわからなかった。畳の上には、格之助の遺体と大塩の生首が落ちている。胴体の方はさっき意義が裏庭に埋めているのを見た。その庭から戻って来た意義が、背負子に積んだガラス瓶を数本降ろした。
「何やってんだよ、おっさん。こんなときに」
「まだやれること、だ」
今度は棚から甕を出してきて、中にガラス瓶の中の液体を注ぎ始めた。カイはそれを酒だと思い込む。
「やれることってヤケ酒か?」
意義が平八郎の生首を、アルコールの入った甕の中に沈める。
「何すんだよ! それは菩提に…」
カイは意義に食ってかかった。が、意義は返り討つようにカイの喉をわしづかみにして言った。
「これから言うことをよく聞け」
すさまじい気迫だ。カイはただ次の言葉を待つ。
「死体がもうひとつ要る」
土井からは、できる限り生け捕りするように言われている。蘭学者でもある鷹見は、わが主君が事件の真相を知りたいのだと考えたが「決起の真意だと? あやつは救民などと申しておったが、救民だろうが謀反だろうがどちらでもよい。わし自身、幕府を転覆させてやろうか、と思うことはいくらでもある」と、物騒な言葉で返した。
「それでは何故、ご主君は生け捕りをご所望か?」
「死なすに忍びない。もう一度平場で話をしてみたい。それだけだ」
こんな会話だった。どうやら主君は大塩という男を高く買っている。そして身内であるはずの奉行所を唾棄すべき存在と罵ってもいた。敬うべき敵と蔑むべき味方。えてして社会はそのようにできている。
捕り方たちの準備はできたようだ。鷹見の感覚器は大塩父子が潜む離れに集中した。
意義からこれからなすべき事を懇々と叩き込まれたカイは、嗚咽が止まらなかった。意義の方は事務的に、爆薬をまるで白粉のように自分の顔に塗りたくっている。そして爆薬の山に導火線をつなぎ始めた。