前輪左から右、後輪一軸右外側内側、後二軸右外内、後二軸左外内、後一軸左外内の順に、ぐるりと一回りして十本を点検する。走行キロは運転席前の積算計を記録し、それからタイヤ装着時の積算計値を差引いて算出する。極めて単純作業であるが、熱風が砂を吹き上げる中では、かなり厳しい労働である。
目の保護のために二人共ゴーグルを装着しているが、その脇から超微細な砂が容赦なく入り込み、目を襲う。
二台分のタイヤ二十本をくまなく点検した結果、最も注視すべきポイントであるビード回り(タイヤとホイールが嵌合する部分)には、微小のクラックはあるが問題ないレベル。サイドや踏面部にも異常は見られない。空気圧も八バール前後に管理されている。
問題はタイヤの実走行キロメートルだ。二台の内の一台が一万二千キロ、もう一台が一万三千キロしか走っていない。
石油公団からは、「テストタイヤが二万キロを異常なく走行したら合格とする」と言われている。
要所々々をカメラに収めると、二人はトラックパーキングに隣接しているワークショップの二階にあるオフィスに行き、ハリールに結果を報告した。ハリールは、「わかった」とだけ言って、
「大分遅くなったけど昼食に行こう」と再びレンジクルーザーに二人を乗せてワークショップを出た。
従業員用のレストランは五分ほど走った宿舎の一角にある。ここも加藤は前回来ているので、
「セルフサービスで好きなもんが選べるばい。味も悪くなか」と井原に言った。
時間がずれていたので、広いレストランには人はまばらだった。野菜、肉、魚、イタリアン、中華といろいろある。北アフリカ料理のクスクスもある。クスクスは元々は原住民ベルベル人の料理だったそうだ。すべての材料がはるか遠いところから運ばれてきた貴重品である。
二人ともスパゲッティーとパンとコーラを取った。加藤は食事の間、ハリールが結果に対して「ダコー(わかった)」とだけあっさりと言ったのが気になっていた。