【前回の記事を読む】太陽の下にいると熱い空気が身体を着衣ごと焦がす。じっとしていても暑さで体力を消耗する
八、 砂漠の映画館
井原とハリールのやりとりを聞いて、加藤が、後ろの席にいる井原に確認するように
「前回私はアルジェからのチャーター便で往復した。今回も帰りは飛行機でアルジェに帰るとかな?」と聞いた。
「帰りの飛行機は明後日十八時のアルジェ行きチャーター便を予約しとるたい」と井原が言って、同じことをフランス語でハリールに伝えた。
「そうか、わかった」とハリールが言っているうちに、ポツポツと砂漠の中に炎が見えてきた。オアルグラから一時間が経過している。
「ちょっと停まる。ここからが我々のワークショップまでの最後の難関だ」と言って、ハリールは外へ出た。熱い空気が瞬時に車中に充満する。
ハリールがタイヤの空気を抜いている。井原と加藤もすぐに車から降りて、その様子を興味深く見つめる。四本のフランソワのサハラXタイヤの空気圧がゼロ近くになり、タイヤがパンクしたように側面が膨らんだ。
「ここからはソフトサンドになる。空気圧を下げて接地面積を広げないと、タイヤが砂に潜ってしまい走れない」
低空気圧タイヤで再出発してすぐにサラサラの砂がうねる箇所に来た。砂漠の熱風が砂を飛ばしている。
その砂の上をゆっくりゆっくりだが確実に進む。タイヤが砂の上に乗っている感じが伝わる。
そうしてソフトサンドの五キロメートルを三十分ほどかけて走ると、再び平らで固い砂のエリアに出る。本来ならここで正規空気圧に戻さなければならないのだが、戻さないドライバーも多い。だからタイヤには厳しい条件となる。やがて石油基地に到着した。そのままトラックの駐車場へ直行する。
そこは加藤が前回来た場所だった。大型のメルセデストラックが八台パークしている内の、並んでいる二台の近くにハリールは停車して言った。
「ニホンタイヤの点検のために待たせてある。終わったらトラックはすぐに発車するので点検は早めにやってほしい。私はそこのワークショップの二階のオフィスにいるので終わったら来てくれ」
加藤はすぐにタイヤ測定道具とカメラを用意して点検を始めた。加藤の言うのを井原がノートに書きとる。