七、 砂漠への一本道
加藤にとっての二度目のアルジェ訪問は、一回目から五ヶ月が過ぎた一九七六年八月であった。
前回はカイロからパリ経由で入国したが、いつもそうはいかない。東京本社経理部から
『パリ経由でないとアルジェには行けないのか? かなり遠回りのようだが』とチェックが入る。
パリ経由より近道で、航空運賃も安いローマ経由もあるが、今回はカイロからアルジェへのエール・アルジェリー直行便での入国とした。少し怖いが、これなら最短最安値なので文句を言われる筋合いはない。
アルジェ空港には七洋商事アルジェオフィスの井原大輔が、運転手のシャドリと共に迎えに来ていた。
加藤と井原は初対面である。
「わざわざのお迎えありがとうございます。ニホンタイヤの加藤清武と申します。宜しくお願いします」と、加藤が挨拶をすると、
「加藤さんのことは大田原から聞いて存じ上げております。
初めまして。私は井原大輔と申します。七洋商事のフランス語研修生として一年間フランスで勉強をしまして、先月からお礼奉公でアルジェに来ております。ですからアルジェリアのことはまだよくわかりません。もちろんタイヤのこともわかりませんのでいろいろ教えていただきたいです。宜しくお願いいたします」と井原も丁寧に挨拶をした。
シトロエンDSで空港から向かいながら見るアルジェの街が、真夏の太陽に真っ白く輝いている。
加藤がその景色に見とれて目を細めていると、井原が一通のテレックスをさしだし、
「御社の東京本社から加藤さん宛に今日来たテレックスです」と渡した。