「確かに弾性体ならそうなる。しかしタイヤはそうはならない。タイヤは弾性体ではなく粘弾性体なんだよ。だから跳ねずに石を包み込むんだ。エンベロープ性能というが、これもタイヤの大事な特性だ」と、田島は心持ち得意げに加藤に説明する。

「わお! 面白いですねえ。ではその三も教えてください」

「タイヤには空気が入っているということだよ。タイヤは圧力容器なんだ」

「??」また謎っぽい話になってきた、と加藤は更に身を固くした。

「空気の圧力、空気圧と言うが、これが車の〈重量を支える〉と同時に、今言った〈曲がる〉〈ショックを吸収する〉そしてもちろん〈駆動力制動力を路面に伝える〉という基本機能をつかさどっている源が空気圧なんだ。

その空気圧を保持し、有効に活用するために、タイヤの骨格が、繊維やスチールコードを複雑に配置することによって形成されているんだよ」

「はあー、なるほど。そうすると空気圧が主役でタイヤはそのサポート役ということ
ですか?」

「そういうことだな。ちなみに路面はいつも舗装されているとは限らない。

泥濘地もあれば砂漠のような砂地もある。そこで通常の空気圧にすれば、タイヤは前に進む力ではなく、掘る力を発揮する場合があるから気をつけなければならない。そういう場合は空気を抜いてタイヤをぺしゃんこにすることで接地面積を広げ、タイヤが潜り込まないようにして走る方法もある」

「なるほど、浮力をつけるということですか。面白いですね」

次回更新は6月26日(木)、21時の予定です。

 

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