そのタバコ屋は、タバコの他にも酒類とおつまみ等やジュースなどが置いてあって、仙一も時々ラムネにサイダーやジュースを買いに行く事があった。
だから仙一にとっても馴染みのタバコ屋ではあった。
一つ通りを越すと、その次の通りの角、電車の停留所の前にそのタバコ屋はあった。
「一夫ちゃんと仙ちゃん、夜店はどないやったんぇ」
仙一が「一夫に先に飴を買われたんで、儂は買えなんだ」
おばさんは「一夫ちゃんは悪い子やねぇ」と、一夫を諫める。
と、一夫が「仙一は女の子に夢中で、飴どころやなかったんや」
「お前何を言うか、儂はそんな事してぇへんでぇ」と、真っ赤な顔になって仙一は弁解をする。
側で聞いていたおばさんが「仙ちゃんはええ身体してるし、男前やさかいモテるんや」
「一夫ちゃんは、他人(ひと)の事を冷やかしてんと、あんたも早よ誰かえぇ人探してきたらどうやぁ」
タバコ屋のおばさんは、染み付いた過去の水商売の仕草と物言いが、ふとした時に言葉の端に出る。若い仙一達にも、崩れた過去の癖などが垣間見えて、それが中年女の色気と錯覚する。