一夫もそんな時は、まだまだあどけなさの残る少年だった。商店街とは言ってもアーケードがある訳でもない。

市電の丹波橋停留所から東に少し行ったところのスーパーマーケットの様な役割の公設市場。

公設市場からさらに東へ少し行くと、急な流れの濠(ごう)川という運河(その辺りの人は疏水と呼んでいた)があり、橋の袂に名前もない二畳程の小さな祠があった。

仙一は、夜店の流れでそこまで歩く積もりだったが、一夫が早くも「帰りにタバコ屋へ行かへんか」と言いながら一夫の目は、仙一とその女の子の間を何度も往復しながら、仙一に囁く様に言った。

「誰かにタバコを頼まれたんか」と、仙一に尋ねられたが、その質問には答えず一夫が歩き出した。

仙一は、飴細工を諦めて一夫の後に付いて歩き出した。

本当は仙一の1歩が一夫の2歩なのだが、背の低い一夫を気遣ってそんな時は仙一も、小股の早足になる。だが、そんな仙一の配慮ある思いやりは、一夫には届かない。

仙一は、背中にその女の子の視線を感じながら、一夫と一緒にタバコ屋へ向かう。

夜店はまだまだ盛況で、裸電球の灯りで夜店を楽しむ人々を照らす中、仙一達は通りを後にした。目的のタバコ屋は、そこから西に少しの距離。

今、向かっているその店のガラス戸が開き、すっかり暗く成った通りに明るい蛍光灯の光が漏れ、明かりと一緒にヌーッと首を出しておばさんがこちらを見ている。

一夫と仙一を見ている姿だった。