日本時間0時5分、深夜便から始まった17日は、時差7時間のストックホルムで落ち着くまで長い長い1日となった。相当疲れていたが、ここで一気に荷物を整理してこれからの旅程の確認、持参のパソコンのセットなど明日からの見通しを立ててから、一休みしようと眠気を払いのけて頑張った。
一段落した顕治は、シャワーを浴び終えると、就寝前にふと機内で出会った女性のことが気になった。彼女は一人、これからどんな旅をするのだろうか。若い女性の一人旅もこの頃見かけるようになった。しかし、なかなかそのような方と話を交わすことはできなかった。
そんなとき、スマホを見たらSMS(Short Message Service:ショートメッセージサービス)にメッセージが入っていた。誰からかと見ると、機内で出会った彼女からのメッセージだ! 眠気も吹っ飛び顕治の心は高鳴った! あの美しい初対面の人からの連絡だ。
「あなたとお会いして以来、私は話をよく聞いてくださったことがうれしかった。高齢の方が一方的に話して会話が途切れてしまうこともあったけれど、あなたとの話はいくらでも続きそうだった。だから、あなたとまたお会いしたいと思いました。いただいた名刺に電話番号がありました」とあった。
顕治は興奮した。本当に、この出会いが顕治の一人旅に大きな夢を与えてくれるような気がした。しかし、しばし冷静に考えてみた。
若い女性が、この女性にとって決して魅力的とは思えない74歳の高齢者に近づこうとしている。これは有頂天になってはいられないぞ! 日本では高齢者をだます詐欺事件が多発している。ひょっとしたら、何か他の目的があるのかもしれないから警戒しろよ! という、もう一人の顕治が心の中でつぶやいているような気がした。
どうする! ここは異国のスウェーデン・ストックホルム。一人旅をしているという女性が、何か他の目的で接近してくるとしたら何があるだろう。やはりお金か。と考えを巡らしたが、「私の話をよく聞いてくれたことがうれしかった」の言葉が、彼女との短時間での立ち居振る舞いと結び付くと真実味を帯びていた。ヨシ! 会ってみよう!
SMSの最後に「チピタ」とあった。名前が「チピタ」! 何かありそうな名前だ。