【前回記事を読む】手白香姫の身が危うい――用心のため男装させたが姫の美しさは人を惹きつける。金村は意を決し越王オホトへの謁見を請うた…

二、 謁見、手白香姫舞う

弥生の三日目朝方、陽が湖面を照り返している。

金村に手を引かれ、馬車から降りてきた手白香姫、一斉に目が注がれた。

金村と並んだ彼女の姿は、大和豪族の長にふさわしく、凛として咲く花の如く初々しい美しさを印象付けるかのような、白地に金の縁、襟元は朱色の神々しさである。

「大和、手白香王女」

「大和大連、大伴金村氏、どうぞ御前へ」甲高い声が、騒々しい観衆を黙らせた。

越大王オホトは、馬飼首(ウマカイノオビト)から大和豪族の窮状は耳にしていたが、突然の手白香姫の登場に驚き、聞き返す。

「手白香姫」

咄嗟に跪く、大伴金村、

「そうでございます、大王様。弟王が昨年突然の崩御、姉姫様が生前より大和豪族の統治をされていました」

食い入るように見つめる越王オホトの両脇には稚子妃と倭妃が立ち並んでいた。オホトとは幼馴染であり、越王国三尾豪族の妃たちである。それぞれの王子と王女が婚姻を結び、王子と妃の二方は壇下、前方に控え立っていた。

檀下、両脇居並ぶ左側が勾大兄王子と檜隈王子を先頭に、王子王女たちが色とりどりの衣装をまとい列をなし、そして右側に宰相はじめ家臣たち越豪族の面々が、黒ずくめの官服で勢揃いしていた。

――先の仁賢帝(手白香姫の父)の頃には国間の交流はあったかもしれないが、息子に代替わりしてから皆無だった――朱地に黒縁の大和の官服をまとった金村は苦々しく振り返っていた。

「越王国大王様、ご機嫌麗しゅう存じ上げます」つと、顔を上げた手白香姫。凛とした声が響き渡った。

「春祭りじゃ、存分に楽しめばよい」オホトは先日亡くなった母の面影を手白香姫に見ていた。逆境に果敢に立ち向かった母を。

「どうぞ、宮中にお留まりください」

大王の意を察した稚子妃が合いの手を入れた。

――決まりじゃ、オホトが姫を受け入れてくださる――大伴金村は確信した。間を置かず、話を進めていかねばと、息長氏に目くばせしながらの退出となった。