「空の気、大地の気、人の気を読んだ。

今日から晴(ハレ)の日、春を祝います。天と地の神様に感謝捧げます」

大王オホトは越国の巫女を見上げ、膝をつき両手を挙げ、深々と叩頭した。後ろに控えている王族や重臣、豪族たち、民衆が、一斉に跪き両手を挙げ叩頭する。

朝早くから馬や馬車、荷車が、足羽川の上流から平野への出口、河川敷から北側の扇状地に向かって方々から集まってきていた。その夥しい群衆を目の当たりにしたのは、金村にとって初めてである。

小高い丘には巫女装束の数人が祭壇の前で「国土安穏・万民守護」の祈りを捧げ、見下ろすと王太后葬儀時に殉死した宮女の遺体がそれぞれ小舟に横たわっていた。

「矢を射ませぇ」巫女が甲高く一声。

すかさず大王オホト、火のついた矢を先頭の小舟目がけ放った、一発命中である。

「お見事」群衆が叫ぶ。

「それ、始めよォ」

大太鼓が打ち鳴らされる中、大王の大号令が、川沿いの民衆たちの掛け声と共に川下へと伝達されていった。火のついた矢じりが向かう先は、大湊まで続く芦原。あちらこちらで火の手が上がり、壮大な野焼きが始まった。目を移すと、南北に連なる山々の頂上からも、烽火が立っているではないか。

 

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