【前回記事を読む】戦乱に敗れ、命からがら倭へ渡来した人々が築いた北陸の大国・越王国。同じ時期、大和地方でも王国や豪族連合が形を成してきて…

一、 越大王国

――大陸から越へ、風を読み、潮流に乗り、戎様のお渡りがある御国。なんと豊かなミクニじゃ――

大和豪族の政権争いに明け暮れていた大伴金村は、心底羨ましく、御国(ミクニ)の大湊を見回していた。

――大和も祖は大陸にあるが、何故こうも違ってしまったのだろうか。朝鮮半島の影響をもろに受け、交わすこともできず、脳なしの若き王がやっと死んでくれた。先代王の嫡男が甘やかされて育ち、そのまま王に納まったはいいが、それがまた犬畜生ときた。おもねる臣や豪族が右往左往と、わしも随分、後始末に翻弄され、とばっちりを喰らったもんだ――

奈良の都から琵琶湖に出て塩津へ、船に揺られながらやっと一息つき、気持ちを切り替えていく余裕も出てきた。米原の息長氏に頼み込み「越王国」への手形を手に入れた金村、実は越のクチ・御国(ミクニ)への旅は初めての試みだった。

そして、傍らで佇む手白香(テシラカ)姫。宮中に一人置いてもおけず思案した挙句、越行きを報告した際、姫の方から「越大王に一目会いたい」と頼まれ同行していた、が、どうしたらいいものか、思いやっていた。

手白香姫の弟・武烈王の非道な支配は、大和豪族たちの悩みの種だったが、やっと死んでくれた。――どこの誰とも知らぬ者が殺してくれたぁ――

ところが、喪が明け皆が皆安堵していた矢先、百済国から密書が届き、一変した。

「隣の伽耶・任那を我国百済へ譲ってほしい。何とか越王に連絡できないものか」

もともと朝鮮半島の南部地域は、中国大陸との交易のため越国が飛び地として先祖代々所有してきたものだったが、大陸の内乱が続き、その影響が朝鮮半島に伝播していった。衛氏朝鮮が起こり、半島内での豪族の分捕り合戦が始まる。北の高句麗から分断した南の百済が、東方で立国した新羅に押され、今ある地域は東西から挟まれ南中央だけとなっていた。

次の王を血筋の男子にと散々出向いていくが、当てにもならない者ばかり。挙句、お迎えにと揃って出てみたはいいが敵方と間違われ逃げていく始末、脳なしの意気地なし。

金村は焦った。見渡せば、この大和豪族にはそれぞれ事情を抱え込んでいる者が多すぎた。朝鮮半島を祖にする豪族、中国大陸を祖に持つ臣たち、欲に知恵が絡み膨らんで、武烈王の崩御で一斉に表面化してきた。それぞれの生業にも響き、皆が皆、浮足立っている情勢であった。

やはり自分が大国「越」へ出向かないといけないことは分かっていたが、余りにも不利な状況だった。