――姫に一役かって頂くしかあるまい、姫には独特の倭人離れした御姿と、誅殺された弟王・武烈を唯一、律することのできた御方でもある。越王オホトは八人の妃と二十人近くのお子たちがいるというが、さぞ立派な男なのだろう。これで良かったのかもしれぬ――
手白香姫を手土産にと、金村は勝手に結論付けていく自分に恥じながらも、結局信じて付いてきた姫に感謝した。金村自身、未知の世界は正直興味津々、半分恐かったのである。
塩津に舟が着く。此処から愛発の関所越え、越王国の入口である。見上げれば、手を広げたように灰色の雲が行く手を遮っているようにも見えた。用なくば入るべからず。
雪が、雪が、後から後から、視界が白く覆われてきた。此処から雪道、道中が危うくなる、寒さに凍えながら襟元・足元を締め直し、歯を食いしばる。姫をお守りしながら、越王謁見まで、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」と改めて誓った。
息長氏の手配か、愛発から馬車が用意されていた。難なく敦賀金ヶ崎の客館(王国御用旅館)でのもてなしを受け、翌早朝、堅固な帆船へと乗り込んだ。冬の倭海の厳しさを聞いていた金村は、年明けの沖合の波の静けさに拍子抜けしていた。
春のような日和の倭海は、すいすいと船を越王のもとへと運んでくれるようで、水先案内の越人えびすたちの掛け声が波音と重なり、何とも気持ちの良い半日となった。
越人えびすたちが沈みゆく太陽に手を合わせていた。
傍らの手白香姫も自ずと手を合わせていた。屈強な家人三人従えてきたが、用心のため、姫には身の安全のため男装し、一言も声は出さないようにと注意をしていたが、やはり姫は常人とは違い、身のこなしが目を引くのか、何処にいても注目を浴びていた。
やっと、やっと、御国(ミクニ)の大湊に着いた。
夕陽の中、板が岸へと渡され、御国の地に降りた。
目を上げると真正面遠くに「霊峰白山」が見えた。
赤く染まった銀世界は、豊かな越王国を象徴しているかのようだ。
目の前は、内海(うちうみ)。倭海を隔てる砂州が西から伸び上がって、東から南から、とうとうと流れ出る三大河川が大きな潟を作り上げていた。信じ難いが、其処此処に沢山の様々な船が帆先を揃えて並んでいた。
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