宮中に留まった手白香姫、大王には八人の妃がいて二十人近くの王子や王女がいることにただただ驚き、仲の良い家族の集まりに羨ましくも、また自分自身が解放されていくのを感じていた。

どの妃も、子供を王族・社会の一員として育てていけるのは、大王と神様のお陰なのだと口を揃えて言う。冬のあの銀世界での厳しい生活を一時でも経験したなら、納得できることだった。

――慈愛の教育をオホトの母王太后が一人息子に叩き込んだという。だから妃も多いのかしら。でも、やはり頼れるのは越大王様。頻繁に足しげく、私を気遣ってくださるのは好意の表れ――

手白香姫自身戸惑いながらも、大王に従って付いていこうと、客館滞在の大伴金村からの連絡を待っていた。

春祭りが終わり次第、大和へ帰る旨を伝えていた金村にとって、姫の処遇が一番の悩みになっていた。――大和に連れ帰っても身の置き所もなく、やはり大王の妃になって頂くしかあるまいて――

また息長氏や王子たちとのやり取り、越王国の治世を目の当たりに知れば知るほどに、大王の資質は勿論、大王と豪族長たちとの論戦に驚きを隠せず、また的を射た宰相の助言と大王の決断力は、目を見張るものがあった。

オホト王こそ、倭国の大王にふさわしい、と感じ入ってしまう。自分までもがオホト王に魅入られてしまったか。ミイラ取りがミイラになった気分で、うららかな春の夜をぶらつく大和豪族大連・大伴金村。とそこへ、

「貴方の気持ちは、よく分かります。越大王は素晴らしい王様です。大樹に寄り添うのは自然な成り行きです」と肩に手をやり、共歩きの息長真手王。

「明日は見ものですよ」