【前回の記事を読む】娘ではなく"女"として――畑から帰ってくるとそこにはべろべろに酔っぱらっている父親がいた…
第一章 壊れた家族
その泣きながら走って行く恵理を見ていた近所の森下敏子が心配になって小川家を訪ねた。
祐一の泥酔漂流事故と、その後の奇行から村八分にされている一家を唯一、気にかけてくれる心の広いおばさんだ。彼女は民生委員をしている。
「恵理ちゃん、どうしたの? 泣きながら山の方に走っていったけど」
祐一は本当の理由を言うはずもなく、
「あいつは泣きみそなんだよ。自分の思うようにならないとすぐにヒスを起こすんだ。困ったもんだよ」
「まだ子供なのね」
「明後日から仕事だというのに大丈夫かな」
なんと、鬼畜祐一は口から出まかせを言った。全く罪悪感も道徳心も自己嫌悪も感じていない。最低の男だ。
「そうね。早いものね。あの恵理ちゃんがもう働くんだもんね」
「父親としちゃあ、あれじゃあ先が思いやられるよ」
「小川さんも飲み過ぎ。昼間はちゃんと働いて、飲むのは夜にしないとね。それはそれで先が思いやられるよ」
3月も終わりだ。日は長くなったとはいえ18時を過ぎた。その日は夕焼けがきれいだがそのきれいな空を見ることもなく恵理は山の林の中でまだ泣いていた。
「お母さんを、お父さんのDVから守ってあげるために島内に就職を決心したのに、お母さんの力になれそうもない」