「こんばんは」

「おう、小川じゃないか」

「先生」と言ったところで恵理は涙声になった。

「どうした? 小川……あ、明後日から仕事なんだよな。悩みがあるんだったら聞いてあげるよ」

卒業した後なのに、未だに相談に乗ってくれるという。感激して恵理は泣いた。涙がいくらでも溢れてきて声にならない。

こんな恵理を野口は見たことがない。いくら仲間外れにされようが気丈だった生徒だ。(よほど辛いことがあったんだろうな)と思った。

確かに恵理の父親の泥酔海難事故以来、祐一が村八分にされたこと。

それによって娘の恵理まで仲間外れにされたことなど、この極少人数の受け持ちでは明々白々であったので、何度か生徒や家庭訪問で生徒の親にも注意したことがあったし、恵理にカウンセリングをしたこともあった。

その時、恵理には落ち込んだ様子がなかったので、野口は「メンタル強くてしっかりした子だな」と評価していた。その恵理がただならぬ涙を流している。

「小川の涙は初めて見たよ。卒業生とはいえ僕の教え子だ。何でも話してごらん」

優しく言った。

 

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