【前回の記事を読む】新年会の鍋作戦は失敗! しかしヴァレンタインのチョコ作りを彼女を含めた3人の女性たちに教えることになり……

第4話 13.Feb チョコレーション

「チョコはね、ヨーロッパでコンチェとか発明される前は、香りはいいけどザラついた食べ物だった」

「コンチェ? 何、楽器みたいな名前」

「まあミキサーの一種だね。チョコは、ある人がミキサーをつけっぱなしにして生まれたんだ。チョコの滑らかさを出すには、工業用の機械がいるんだ」

「へー」

「だから工業国のヨーロッパがチョコの本場になった。チョコレートってさ、ガラスに似てるんだ」

「はあ、全然似てないけど」と美久さん。

「見た目じゃなくてね、物性がね。ガラスもチョコも温めると溶けるし、冷やすと固まる。そして繊細」

「確かにね」と舞さんがうなずいていた。

君は、女子3男子1、なんて状況を経験したことある? 僕は、久美さん舞さんを前に説明を続けたけど、それはね、僕の瀬名さんへの想いを、この二人に気取られないようにしようとする意識が強かったからなんだ。本当は瀬名さんとずっと話をしていたかった。

「固まる時が大切なポイントなんだ」

「固まる時」

「クリスタルガラスってあるでしょ。あれはゆっくり冷やすことでガラスが結晶構造になる」

「へー、クリスタルって、そうやって作るんだ」

「高価なチョコレートも同じ。冷める時に結晶化するけど、そこが肝心。テンパリングというのは一定の温度にしたチョコを何度も伸ばして、結晶を一定方向にすることなんだ。だから同じチョコでもショコラティエによって口当たりが違うものが出来上がる。お手本を見せるね」

僕の話に感心してくれた瀬菜さんが目の前にいた。僕は石板の上で、温度計をさした湯煎ボールで温めたチョコをヘラで伸ばした。