翌朝、里見のスマホが鳴った。二人はまだベッドの中にいた。10時には横浜に着くと宮澤から連絡が入っていた。

横浜に到着した宮澤は、5階の鍋がある部屋に直接案内された。

「真空ニーダーですか、これ」

「攪拌(かくはん)機能はあるけどニーダーではないわ。真空ポンプもないし。これはステンレス製の釜。ただし特注よ、食材がこびりつかないように、内面を磨きあげ鏡面加工で仕上げてあるの」

「水は?」

「言われた通り、500リットル純水を用意してある」

「温度は?」

「そこに温度計があるわ」

玲蓮が爪にラメの入った指先を装置のデジタル表示に向ける。表示は19.5℃。

「OK、希釈しますね、攪拌と加熱を始めてください」

宮澤は透明なパックの液体を、いったん計量容器で測り、少しずつステンレス釜の中に投入し始めた。さらにビニール袋に入れた粉末を加え、白鍋、赤鍋双方に液体と粉末が投入された。玲蓮が小声で里見の耳元で呟いた。

「あれは何?」

「アミノ酸、核酸、ミネラル、タンパク質、食塩、糖質、食物繊維、香料、その他諸々」

「インスタントラーメンのスープみたい」

デジタル温度計が50℃を表示している。

玲蓮がスープをレードルですくい、3人で味見をするために白磁の小皿に取り分けた。

これが駄目なら、もうどこにも自分の逃げ場はない。玲蓮は不安から試飲をためらった。

玲蓮の様子を察した里見が、最初に口に含み、目を閉じ口中で味を探った。一瞬の間を置いて里見の顔がほころんだ。

「香りは弱いけど、いい線だ」里見が自信を持って玲蓮に促す。