【前回の記事を読む】「今日会ったばかりなのに、手をつないでくる女なの。私って」――彼女の指が俺の指を一本一本集めるように動き、されるがまま…
二
サオリは小さな子ども相手に話すように続けた。配牌が少しぐらい悪くても、大きな手になるようにサオリは目の前の手を育てるという。
自分が二着目の時、トップと逆転できるように手を育てられた時は祈るような思いで次の牌を自摸(ツモ)る。自分が思った通りに上がれることもあれば、もう少しのところで他家(ターチャ)に上がられてしまうこともある。
基本は一人対三人のゲームだから、後者になることの方が確率的には多い。相手の当たり牌を見極めながら、今の自分の進むべき方向を定めて手を育てる。悩んだり、経験で得た知識を活用したりする中で目の前の十三枚の牌たちが綺麗な絵のように並び変わっていくことに、黙っていられない高揚感でいっぱいになる。
「競技プロの人が言ってたわ。四回に一回上がれればいいって。そうは分かっていても、もう一息のところで、自分の努力や工夫がパッと消えちゃうって残酷でしょ。でも、その残酷さに捕まっちゃって逃げられないのよね」
サオリは、一度大きな手で上がれるとこの調子でいこうと思うけれど、その調子でいけないゲームが麻雀じゃないかなとも言った。そして、いつ、いい手が入るか分からないからこそ、「来た」と感じたら逃すまいと前に出ると言う。
「だからさっ、夏生さんと手ぇつないでるのよ」
カッと、また体が熱くなって、夏生は「ううん」としか返せなかった。
千本通りに出ると人影は見られない。行き交うタクシーも疎らだ。烏丸通りから千本通りまでの道のりは短く感じられたが、時刻はだいぶ進んでいるようだ。