玲蓮は恐る恐る小皿を口に運び、目を瞑(つむ)ってゆっくり試飲した。
玲蓮からため息が漏れた。
「完璧だわ。というか雑味がなくなった分、さらにクリアで良いわ」
「そうですよね、これは、何か食材を加えたほうが個性が出ますよ、調整は必要なさそうですね」宮澤が得意げに答えた。
玲蓮は溢れる安堵感からヘタリコミそうだった。
「部長、車に忘れ物したんで、ちょっと取ってきます」宮澤は小走りにエレベーターホールのほうへ行ってしまった。スープ室に玲蓮と里見は二人きりになった。
「これで、大丈夫かな?」
里見が玲蓮の間近で問う。
「うん。あー完璧。完璧よ、助かった」玲蓮の大きな目がうるんできた。
「よかった」
里見も心底ほっとした。うなだれて小さくなった玲蓮が愛おしくなり、強く抱きしめた。彼女も里見の抱擁を受け、しばらく身を委ねていた。
乱暴にステンレスのドアが開き、宮澤が戻ってきた。
里見と玲蓮は慌てて体を離した。宮澤は何も気づかず玲蓮に歩みよると、レターケースを開け、書類をさし出した。
次回更新は6月26日(木)、22時の予定です。
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